強いAIについて夢想したいなら読んでおきたい『脳が認める勉強法』

最近バズワード化した「AI」とやらについて自分も見聞きする機会が増え、自分も色々、答えたりすることがある。IT関係者はしばしばPCの修理を親戚にタダで依頼されるのだけど、今後は親戚からもAIについても詳しいと勘違いされる可能性が高い。

機械学習を起点にしたアルゴリズム群は優秀だけど、そのままでは将来的にも人間に近い、いわゆる「強いAI」になることはないし、感情を理解出来てなかった1ロボットが、ガキとのコミュニケーションの末、溶鉱炉に沈むときに親指を立てて未来のリーダーにエールを送れるようになったりも、しない。そういう話は、長年研究している専門家や実務家が各所でとっくに、もっとちゃんと説明してるので、ここで書くことも、しない。

最近「強いAI」について考えるときに一つ「なるほどなぁ」と思ったのはAIについての本ではなくて『脳が認める勉強法』という本だった。この本は素晴らしい。おすすめ度は個人的に最高レベルの「うまいもんだなあ!」(ドラえもん)

この本は、最近までの脳に関する研究の紹介と、それを元にした効率的な記憶方法・勉強方法・問題解決方法についてのヒントを読者に与えてくれる。ちなみに、巻末にすごく簡単に、要するにどうやれば効率的に勉強が捗るかなど有益なQ&Aがあるので、勉強方法にだけ興味があれば、ちらっとそこだけ読むのもオススメだ。

大事だと思ったのは、もし自分みたいに(強い)AIについて夢想する人が、脳について「エビングハウスの忘却曲線」レベルまでの研究しか知らなければ、永久に良い夢想をすることは出来ないということだ。

詳しくはこの本を読んで、場合によっては書いてある「実験」で体感して欲しいのだけど、要するに、脳というのは単純に物事を「忘れていく」のではない。右脳と左脳の連携と、記憶蓄積その神経接続を複雑に入り組ませて、大量に柔軟に記憶を実生活に応用できるようにできている。

脳をモデル化するにしても、稚拙な方法で脳を模倣するようなら、人間の柔軟性に近づきようはないように感じられる。脳は更に、本書が言うとおり、現在の研究が追いついているよりも、さらに複雑な何かをやっている。全容が分かっていないものの一部を理解したってうまく模倣できないのは当然であるけれども、分かっている部分を知っておかないのは、やっぱり夢想家としても、とてももったいない。

例えば、ある文章を読んだ少し後に文章の内容を思い出させる試験する。その後、翌朝なり数日後なりにもう一度同じく内容を思い出させる試験をする。すると、実験のやりかたによるらしいのだけど、数日後の試験のほうが、意図的に復習もしてなくても成績が上がったりするのだという。何かを覚えた後に試験をするときに、昼寝をしたほうが成績が良くなるという研究もある。

上の研究と同一ではないが本書にも読者が出来る実例があったので、自分も試しに本書に書かれている通りにその課題をやってみた。ある日に二つの文章を見て、一方ともう一方である違う復習方法をその日のうちに行う。そして翌朝、文章の内容を書き出し、元の文書と比べる。二つの内容は異なれ、文章量やヘンテコ度は大差ない。どのくらい思い出せたかを、確認する。

結果、自分の場合も、直感とは異なる方法がより「良い」記憶を保持していた。詳細は本書を参照いただきたい。言いたいのは、「私の脳の仕組み、思ってたんと違う!」である。

脳に対する基本的な理解から違ってたことで勉強の効率にもモロに響くのであった。

# ちなみに読んだ文書の内容を書き出すという試験方法を取るのだが、文字が汚すぎて嫁が「これ、自分で読めるの?」と聞いてきた(´・ω・`)

脳を模倣するとかいうつもりの研究者なら、模倣するものを間違えるだろう。夢想するときにも、現実と連動しないトンデモ夢想に飛んでいく。まぁ夢想について言えば、それでいいんなら、いいと思うけれども。

脳の配線というのは、忘却するにしても覚えるにしても、覚醒・睡眠のサイクルの中で適宜書き換わるとともに、古い配線であっても、ある段階で必要になったら素早く再利用出来るようには蓄積されているらしい。この配線の挿げ替えメカニズムも含めての脳だ。古い記憶を柔軟に再利用する準備をしているのが、脳だ。

「エビングハウスの忘却曲線」は、無意味な単語を一度覚えて、経過時間に応じて忘れる量を定量的にとらえるという実験を行うことで、オッサンがすごく苦労して自分の記憶の忘れ方を研究したという意味で、画期的な内容だったらしい。ちなみに画期的なのは「オッサンが研究した」部分じゃない。

脳はそういう無意味な単語列に対しては、「忘却曲線」のような忘れ方をするかもしれないけど、文章とか人生の所々のイベントの覚え方では、そういう「忘れ方」はしない、というのがこの本が記憶について書いていることだ。それだけでも、大いに勉強になる、というか「そーですよねぇ……」と思った。

自分は「忘却」というプロセスのを脳内の配線の破棄だと思っていたのだけども、本書が指摘する通り、確かに実際の人生ではそうはなってない。

2年間、右車線の国で車を散々運転していた後帰国して、あるとき突然に左車線の国でレンタカーを借りて運転したら、特に問題なく運転できたのだった。忘却が脳内の配線の破棄であるとすればこの柔軟な対応は理解し難い。本書の言うとおりだ。なんでそういうことが人間の脳に出来るかもっと知りたければ、本書を読もう。

人間の「ひらめき」についての本書の記述もある。これもまた「目から鱗」な記述が満載だ。

あいにく、必ず「ひらめく」方法論までは今の研究者でもわからないし多分ずっとわからないだろうと筆者も言っている。でもまさか、脳に覚えさせたいスキルの方向性に応じて、どういう寝方をすれば良いかなんてアドバイスが出てくるとは思っていなかった。こんがらがった事情を脳に整理させたい時(ひらめきの可能性が最大化する時とも言える)と、テニスやピアノがうまくなりたいときと、記憶を蓄積したい時では、脳が適切にそれらを処理してくれる眠りのフェーズが違うんだという。眠り方の指南まである。

大学時代にある短眠法のトンデモ本に騙されかけたことがある私としては、こういう指摘こそ中学なり高校なりの先生が普通に知っていて生徒に教えてほしいことなんだ!かなしい!1日13時間勉強なんてマジで時間の無駄だ!(大学受験時、本当にやってました orz)

脳の研究、神経科学等の専門研究は、この本のまた先に進んでいるのは当たり前だ。本書はあくまでAIを夢想するというレベルで良い人に向けて紹介している。

とはいえ前線のAI研究者でももし興味があればこの本を読んで知識を補完すると、もしかすると未来の強いAIのモデル構築の役に立つかもしれない。

Hasta la vista, Singularity.

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